開催報告 4月20日(金) 公開講座「社会課題としてのエネルギー需要・供給: 中心的役割を担うのは誰か?」

 サイエンス・コミュニケーションを活発にする機会

本公開講座は,公益財団法人 内田エネルギー科学振興財団科学技術知識普及事業費助成を受けて催しました.次のプログラムで進行した本講座は,新潟大学創生学部のYoutubeチャンネルよりライブ配信を含め,エネルギーに関するサイエンス・コミュニケーションを活発にする機会と位置付けました:

司会・進行 小林琴(創生学部2年),上條ひかる(創生学部2年)
12:55~13:05 開会の挨拶 鳴海敬倫(創生学部学部長・教授)
13:05~13:25 趣旨説明: 国連持続可能な開発目標(SDGs)におけるエネルギー課題 半藤逸樹(自然科学系准教授)
13:25~14:00 講演: エネルギーも未来も全てはCHOICE選択! 株式会社リバースプロジェクト共同代表 龜石太夏匡
14:00~14:25 講演: クリエイターが考えるエネルギーの未来 ロボットいきもの工房TRYBOTS代表 近藤那央 ※インターネット中継での講演
14:25~14:45 休憩
14:45~16:00 パネルディスカッション
パネリスト: 龜石太夏匡,小林夕夏(創生学部2年),峰川拓人(創生学部2年)
モデレーター: 半藤逸樹
16:00~16:05 まとめと閉会の挨拶 澤邉潤(人文社会科学系准教授)

公開講座の様子は,以下から視聴できます.なお,ダイジェスト版も近日中に公開する予定です.

参加者は約100人,司会・進行は創生学部2年生

公開講座では,昨年度の科目「フィールドスタディーズ(学外学修)」において,株式会社ニュ-メディア新潟センターで経験を積んだ創生学部2年生が司会・進行を務めました.

司会・進行の上條ひかるさん(創生学修課程領域学修科目パッケージ(応用生命科学・食品科学))(左)と小林琴さん(創生学修課程領域学修科目パッケージ(自然環境科学))(右)

 

創生学部学部長鳴海敬倫教授による開会の挨拶に続き,自然科学系創生学部担当半藤逸樹准教授が趣旨説明を行いました.半藤准教授は,国連「持続可能な開発目標」に掲げられているエネルギーに関する課題を説明した後,本公開講座の目的と目標を強調しました.

開会の挨拶をする鳴海敬倫学部長

半藤逸樹准教授による趣旨説明

 

ゲストスピーカーによる講演

株式会社リバースプロジェクト龜石太夏匡共同代表とロボットいきもの工房TRYBOTS近藤那央 代表にご講演いただきました.龜石氏と近藤氏には新潟大学創生学部教育サポーターズを務めて頂いておりますが,今回が初めての共演になりました.

龜石氏は,リバースプロジェクトの立ち上げをきっかけに,衣食住に関する様々なプロジェクトを展開した経験から,如何に社会課題を解決するか?という点を強調されました.また,消費を抑える活動の事例についても紹介されました.社会課題を仕組みで解決する例として,「MENERGY PROJECT」が循環型のものづくりの提案になっており,エネルギーの有効利用についても発言されました.


株式会社リバースプロジェクト龜石太夏匡共同代表のご講演

 

近藤氏には,ロボットクリエイターの立場から.未来のエネルギーについて話題提供していただきました.ペンギンロボットを開発した経験から,ロボットでできた新生物(ネオアニマ)「にゅう!」や,ネオアニマが生活に溶け込み,孤独感をなくす未来社会の構想に話が進みました.これからのエネルギーについて,未来社会のイメージからトップダウンに考えるという視点に言及され,会場との意見交換につながりました.

ロボットいきもの工房TRYBOTS近藤那央代表のご講演(SKYPEでのご出演)

 

パネルディスカッション

パネルディスカッションには,龜石氏と昨年度「基礎ゼミI(科学技術と社会)」でエネルギーの諸課題について課題解決型学習を進めた創生学部2年生2人(峰川拓人さんと小林夕夏さん)がパネリストとして登壇しました.会場との対話を促進するモデレーターは半藤准教授が務めました.

パネルディスカッションでの龜石太夏匡 氏(右)と半藤逸樹(左)

議論は,東日本大震災以降の動向や, コジェネレーションや再生可能エネルギーの可能性に及びました.峰川拓人さんは,火力発電での損失エネルギーの利用についてコメントしました.

質問に答える峰川拓人さん(創生学修課程領域学修科目パッケージ(法学))(右)と小林夕夏さん(創生学修課程領域学修科目パッケージ(生物資源科学・流域環境学))(左)

自然科学系創生学部担当の熊野英和教授は,龜石共同代表の講演内容を受け,「エネルギーは有限だと思われてない.自分と他者を分ける境界を広げていくことで,有限性が見えてくる.その観点がない限りエネルギーの問題がついてまわる」とコメントした上で,「エネルギーで大事なのは量よりも質.エネルギーは保存されるものなので,使えば使うほど悪さをするエネルギーが出てくる」など,専門的なインプットをしました.

再生可能エネルギーについての議論のなかで,龜石共同代表は「技術は進歩するけども,実際のエネルギーの利用には人的要素や市場が組み込まれる.それゆえ難しい部分がある」と,ステークホルダー間の調整の難しさを語りました.半藤准教授は,フェイクニュースが大量に流れるなかで,サイエンス・コミュニケーションの重要性を説明しました.

小林夕夏さんは,宇宙太陽光発電の可能性についてコメントしました.新潟大学工学部の菅原晃准教授にも参加して頂き,風力発電や水素エネルギーの未来についても議論しました.太陽光発電について,メガソーラーの実現性についての動向を解説する参加者(学生)もおり,パネリストと円滑な意見交換ができました.

メガソーラーについてコメントする参加者(学生)

龜石共同代表の「エネルギー単体ではなく,他の要素をつなげて課題を社会解決してゆくべき」の発言を受け,スマートグリッド構想についても意見交換が行われました.

パネルディスカッションの最後は各登壇者から次のようなまとめがありました:

峰川さん「エネルギーは社会の基盤.多様に変化する社会のなかで,自身の考え方をはっきり持つことが大事だと思った」.

小林夕夏さん「龜石氏の発言を受け,物事を複合的に考えて解決してゆくことの重要性を再認識した.その意味で創生学部に求められていることも重要」.

龜石共同代表「最悪の状況を想定しつつ,最善の努力をすること.大人がやるべきは,最善の努力を続けること.様々な課題を自分事(じぶんごと)として捉えること.希望の持てる未来とは良い予測を立て,時間をかけて実行することであり,すなわちプロジェクト.それが結果として未来につながる.これまで本質をとらえていなかったことに対し,今一度向き合うことが自分なりの正しい選択をすることになる」.

半藤准教授「エネルギーに困らない状態が理想的.龜石共同代表の話につなげると,良い未来を描けば,そこに近づく努力をすることになる.先のことを悲観しても仕方がない.未来につながる希望は,今回の議論でも認識できた」.

 

今後の展開

パネルディスカッションは,エネルギーの「生産側」の話がフォーカスされ,ライフスタイルを含めた「消費側」の話が未消化だったことも否めません.今後は,「消費側」の議論を行うなど,サイエンス・コミュニケーションを続ける努力が必要だと考えます.

最後に,新潟大学澤邉潤准教授が「今後の転換してゆく社会のなかで,エネルギーに関する諸課題があるなかでどうやって生きてゆくのか?ということ.エネルギーを作る側と使う側があるなかで,そこをつなぐことが重要になってくる」とまとめ,閉会の挨拶としました.

閉会の挨拶をする澤邉潤准教授

多数のご参加,誠にありがとうございました.